2006年11月13日
『BINARY HACKS』
すでにblogを中心とした口コミで発売前からPS3どころではない人気となっている本書が、バイナリの日の昨日(11月11日)に発売された。書店やAmazonでもまたたく間に品切れとのことで、Yahoo!オークションへの転売目的の買占めといった不届きな事態がないか心配されるところだ。
本書を生み出すきっかけとなった「Binary 2.0カンファレンス2005」が開催されたのは、昨年の12月のことである。コンピュータや言語の低いレベルな話というのはたいへん興味深く、またスピーカーも話術巧みな人が大半を占めていて非常に素晴しいカンファレンスであった。binutilsやランタイムいじりなどの「モヤモヤ」した低レベル技術を「バイナリ」という言葉でまとめた、主催の高林氏のセンスはさすがであり、キャッチーな言葉で人々を釣り惑わす手管にかけては彼に並ぶものがない。
カンファレンスが終わってすぐに、氏からこの内容をふくらませて書籍化することになったと聞いた。1年近くの予想外な難産とはなったが、ついに出版されたことは慶祝の至りだ。現在の賑いも、本書への待望がどれだけ大きかったかを裏付ける。
380ページのハンディながら分厚いこの1冊には、名立たる“バイナリを知る者”(バイナリアン)からの100のハックが収められている。構成はわりあい大雑把で体系だって順に読むものではないし、いわゆる「バッドノウハウ」スレスレ(むしろバッドノウハウのレベルを振り切れちゃった?)のテクニックだってある。普通の人は一生かかわることがないものも多いし、Windowsと軽量言語(Lightweight Language)全盛の中で、LinuxだのNetBSDだのアセンブラだのと言っているのは時代遅れかもしれない。
それでも、本書はおもしろい。
本書を読んで覚えたのは、「商業出版された同人誌」という感覚だ。無論、編集・出版・流通といった点で同人誌とは異なるが、売れるための構成や内容に縛られることなく、高名な著者陣が自然に集まり、好きなものを好きなように書き、自己の持つ才知を大いに世に向けてアウトプットするという特性を、本書は持っている。このような色合いはオライリー社のHACKSシリーズ全般にも言えることではあるのだが、「バイナリ」という0|1という明確な意味の割に漠然とした派生表現があるこの言葉によって、枠に囚われない叡智のごった煮が本書ではより濃厚に調理されている。概してバイナリアン向けのツールは、高機能にもかかわらず、ドキュメントがまったくないか、manページの乏しい記述から内容を把握せよというものが多いものだ。そのノウハウが書籍の形でまとめられただけでも多数の人々の福音となるだろう。
ハッカーがバイナリを熟知しているという必要は必ずしもない。しかし、バイナリアンはまぎれもなくハッカーである。バイナリアンハッカーたちの叡智を味わい、低レベルを楽しもう。
さらなるバイナリアンへの道としては、大いなるアセンブラの世界がその先に待っている。海外のバイナリアンRandall Hydeの筆による『Write Great Code Volume 1:ハードウェアを知り、ソフトウェアを書く』がそのガイドになるだろう。なお、続編の『Write Great Code Volume 2:低いレベルで考え、高いレベルで書く』も近日発売予定だ。
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